プライマリーケアをしっかりと

 産婦人科医が自分の進路について考え始めるのはいつ頃だろうか。臨床を志す場合は、大学の医局に残る、公立または民間病院に勤務する、開業する、おおむね その 3 つに集約されるという。橋本学院長は開業を選んだが、もともとは消極的だった。借金を背負い、 やっていけるかどうかも分からない、リスクは一番大きいと考えていた。それがいつの日か「勤務医を一通り経験して、一か所に落ち着いて長く働きたいとの思いが芽生えた」ことが、開業への決断を促した。

 「勤務医には、定年や異動がついて回ります。とくに公立病院では避けては通れない。大学に残る場合には研究、臨床、教育のすべてをこなさないといけない。しかも残ることができるのは、成果を上げた一部の人間のみです。結局、消去法で開業する道を選びました」

 開業時の年齢は 37 歳。産婦人科医としては市内でも若い新規の開業医だった。それから 4 年、今では助産師を 9 人も抱える屈指の人気クリニックになっている。産婦人科医を志望したのは、大学時代に「世界に通用する研究を熱心にしているのが産婦人科の医局でした。優秀な先生の元で研究してみようと思った」のがきっかけだ。

 しかし研修医時代に臨床、手術などを経験するうちに、外科的な治療や結果を自分で導き出せることに面白みを感じ、臨床医に傾いていく。「子宮頸がんなど婦人科の診療ももちろん行いますが、医師として病気を治療するか、発見するか、どちらを専門にするか考えた時、自分は発見する方だと思った」。以来、妊娠・出産を中心に、難しい症例は大学病院と連携して紹介する関係を築いている。「開業医は患者さんにとっては入口。診療に通っていただく経過で、手術などの治療が必要な症例なのか、経過観察や薬物療法のみでよい症例なのかをしっかり見極める、プライマリーケアが重要だと思っています。毎日診られる、長く続けられることを強みに活かしていきたい」

 新しい生命の誕生と向き合う。その感動は産婦人科医にしか得られない。自身の過去の体験を振り返り「一人目が運悪く死産でも、次また妊娠されて当院で出産していただけた時は本当に嬉しい。産婦人科医になって良かったと思える瞬間です」と打ち明ける。出産された方が退院の際、笑顔で見送れるのも楽しみの一つだ。「産婦人科には産科、腫瘍、内分泌、生殖医療などの多岐にわたる分野がありますが、はじめから一つに限定せず、とにかく研究、臨床、手術など 一通り体験してみることです。やってみることで面白みがわかり、自信も芽生えていくと思う」と、若い産婦人科医へメッセージを贈る。