生命の誕生と再生、守備範囲の広さが魅力。

生命の誕生と次世代への継承。それが産婦人科医療の最大の魅力と言える。
入局者を増やすポイントは、産婦人科医療の魅力や、やりがいをいかに次の世代に伝えるか。
藤原浩教授と二人の若手医師が、産婦人科の魅力などについて語りあった。

神秘かつ壮大な医療に興味をもつ

藤原●私は、産婦人科医療の魅力は新しい生命の誕生と発生、発達、成熟を支えるところにあると思っています。今、再生医療が注目されていますが、それは主に臓器の再生で、世代や生命の再生ではありません。私たちは、次世代の生命の継承を担っているわけで、生命の誕生と再生という非常に神秘的かつ壮大な分野といえます。同時に、人間にとってもうひとつ重要な「発達」を小児科とともに担っています。母胎のなかで生命がどのように発達し、生まれてきたか。生まれてきた後も発達し、成熟してまた年を取っていく。つまりトータルでどういう治療をするかを診ていく領域でもあります。その部分をぜひ、医療をめざす学生に理解していただきたい。

明星●学生や研修医の皆さんに魅力を伝えるには、まず産婦人科とはどういう学問なのか、医療なのかを「知って」いただくことです。私自身、学生の時にBSL、ベッドサイドの実習で初めて知ってとても興味を覚えました。今は、スーパーローテートで選べるようになっていますのでぜひ産婦人科を選んで、そこで指導医についてもらって学べば必ず、産婦人科医療に興味を持ってもらえるのではないかと思います。

松本●私は医師になって8年、今は金沢大学大学院の1年生ですが、もともと外科系志望で産婦人科医はまったく考えていませんでした。それが、初期研修の2年目にスーパーローテートで金沢大学のカリキュラムを選んで初めて産婦人科を回らせていただき、手術とか手技的なことをさせてもらったり、腫瘍の分野で世界的な研究をされている先生と出会っていろんな発見があったことが大きかったと思います。

藤原●若い入局者を増やしていくには、今二人が言った魅力や面白さをいかに伝えるかですが、私はその場合、大学の存在が非常に大きいと考えています。学生の指導、教育は基本的に病院ではなく大学、つまり医学部で行います。大学病院は、学生の教育を担っているわけです。もう一つは、研究のために戻ってくるということ。市中病院などで勤務していても自分の課題に対する答えを解明するのはなかなか難しい。産婦人科の医局員はみんなが診療のスペシャリストであり、研究のスペシャリスト。大学にはハード、ソフトが揃っていてチーム医療が徹底しています。生命の誕生から発達、次の世代への継承まで、大学病院ではありとあらゆる診療、研究を行っていますから、感性が磨かれないわけがありません。医師になって4~5年外の病院を経験して大学に戻ってきたときに、いろんな物の見方、考え方がつながり、自分の感性で解決していけるようになる。それも魅力の一つだと思います。

若い先生が安心して働ける

松本●産婦人科の医局は、研修医の時から積極的に診療や手術を任せてくれますし、先輩、後輩、同期、同門会などコミュニケーションも行き届いていて、顔が見える関係ができています。それと内分泌からお産、手術、腫瘍まで診療の幅が広く、しかも最初から最後まで自由裁量でできます。自分がやる気になればいろんなことにチャレンジできるのもいい。

明星●そう思います。個人的には病気と対峙するより、生命誕生の喜びを感じられることに魅力を覚えました。女性は特に出産や子育てはついて回るので、その経験も生かせる診療科だと思います。とくに女性医師は出産後に復帰するかどうかが大きな課題。そこでドロップアウトしてしまう人も中にはいます。当院の医局に関して言えば、まずそういう心配はほとんどありません。子ども二人以上の子だくさんの医師が数多くいて、チーム制でやっているので子どもが病気や熱で休まないといけない時も万全の体制が整っています。私自身も、仕事を続けているので、結婚・出産後の働き方に不安を感じる人の力になれると思います。

藤原●今、話しがあったように産婦人科はいろんな道があります。内科系志望はもちろん、手術が好きであれば、子宮脱や骨盤臓器脱などのQOLの改善につながる手術から帝王切開までいろいろ経験できます。婦人科であればがんの手術はもちろん腫瘍の研究や生殖医療においても、どこにも負けない実績を挙げています。石川県の産婦人科は高齢化が進んでいることを嘆く声もあります。たしかに現状はそうですが、私は全然悲観的に考えてはいません。個人的には、高齢でも経験豊かな先生には大学でぜひ指導をお願いしたいと思っています。若い人を指導する指導医も不足しています。大学で研究ができて、専門に進むなり、開業するなり、人の流れが20年、30年単位で北陸の産婦人科医療のシステムとして提供できるようになっていれば、若い先生方は安心して産婦人科医をめざせると思います。仮に金沢大学以外の大学で学んだ医師であっても、来るようになると私は考えています。

松本●自分は10年間は手術とか、腫瘍の勉強をしっかりして、知識や経験を身につけてゆくゆくは腫瘍専門医をとりたいと思っています。

明星●仕事をしたければできますし、出産や育児を大切にしたいならそうしながら働ける環境も整っています。若い人が働きやすい環境をサポートするのも私の仕事かと思います。

藤原●女性医師が増えてきていますので、明星先生にはぜひ女性医師のモデルとなって頑張っていただきたい。産婦人科領域の大切さと魅力をきちんと伝えて、興味をもってこの地域で働ける。将来にわたって飛び込んでいける形を示していくことが大切だと思います。